インクラインダンベルロウのやり方をメリット・デメリットを踏まえて解説!
前回、「ダンベルベントオーバーロウ」について解説しました。
この種目は背中全体を鍛えることができる非常に優れたトレーニングなのですが、前傾姿勢での動作が必要なため、姿勢維持の難しさや腰への負担から、正しいフォームで行うことが難しい種目でもあります。
そんなときに有効なのが、インクラインベンチを使ったバリエーションである「インクラインダンベルロウ」です。
今回は、インクラインダンベルロウのメリット・デメリット、正しい方法(やり方)、呼吸法、セッティングまでできるだけ詳しくまとめていきたいと思います。
インクラインダンベルロウ
インクラインダンベルロウは、インクラインベンチにうつ伏せで上半身を預けた状態でベントオーバーロウを行います。
ベンチに上半身を預けることで、腰への負担を大きく軽減しつつ、広背筋や僧帽筋にしっかりと集中して刺激を与えることができます。
フォームを安定させながら背中にしっかり効かせたい人に非常に有効です。
腰に不安がある方、体幹に自信がない方にとっても安全にトレーニング行う上で、有用な選択肢となる種目です。
インクラインダンベルロウのメリット・デメリット
インクラインダンベルロウのメリット
- フォームが安定しやすい
インクラインベンチに胸をつけて上半身を固定することで、動作中のフォームが安定します。
姿勢の維持に意識を取られずに済むため、広背筋や僧帽筋などのターゲット筋にしっかり刺激を集中させることができ、トレーニングの質を高めることが可能です。 - 腰への負担が少ない
インクラインベンチに胸を預けて行うことで、上半身の重みを自分で支える必要がなくなり、腰への負担を大幅に軽減できます。
特に、腰に不安がある方やトレーニング初心者にとっては、安全性の高い選択肢と言えます。
また、たとえばデッドリフトの後にベントオーバーロウを行うような場面では、脊柱起立筋の疲弊により姿勢維持が困難な場合があります。
そんなときも、インクラインベンチを使えば姿勢を安定させやすく、正しいフォームを維持しやすいため、無理なく背中のトレーニングを続けることが可能です。 - 反動を使いにくく、背中に効かせやすい
上半身をベンチに固定することで、体を振ったり反動を使ったりする動作が自然と抑えられます。
その分、広背筋や僧帽筋などのターゲット筋にしっかり負荷をかけられ、狙った部位に的確な刺激を届けることが可能になります。
“効かせる”感覚を重視したい人や、マインドマッスルコネクション(筋肉と意識のつながり)を高めたい人にとっても非常に有効です。 - 初心者でも正しいフォームを習得しやすい
ベントオーバーロウは一見シンプルに見えて、実は正しいフォームの習得が難しい種目の一つです。
腰を守りながら前傾姿勢を保ちつつ、背中の筋肉をしっかり使うには、相応のフォーム意識と体幹のコントロールが求められます。
その点、インクラインベンチを使えば自然と姿勢が安定し、「背中で引く感覚」や「肩甲骨を寄せる意識」もつかみやすくなります。
フォームが崩れにくいため、プル系種目に慣れていない初心者でも、安全かつ効率的に動作の基本を身につけることができます。
インクラインダンベルロウのデメリット
- 可動域が制限されやすい
胸をベンチに預けた姿勢で動作を行うため、腕を引いた際にベンチにダンベルや腕が干渉してしまうことがあります。
人によっては十分に引ききれず、背中の筋肉をしっかり収縮させにくくなることもあります。
また、ダンベルを下ろすときも胸の前にベンチがある関係で十分にストレッチをかけにくい場合があります。
フォームを維持しやすい反面、収縮局面・ストレッチ局面のいずれにおいても、動作の可動域が制限されることがあり、広背筋や僧帽筋への刺激が十分に得られない可能性があります。 - 前傾姿勢にも制限がある
ベンチの角度を寝かせすぎると、ダンベルを下ろしたときに床との距離が狭くなり、動作スペースが不足しやすくなります。
その結果、広背筋や僧帽筋を十分にストレッチさせることができず、筋肥大効果が下がる可能性があります。
逆に、ダンベルが床につかないようにと角度を立てすぎると、今度は上体の前傾が浅くなってしまい、重力方向に対して背中への負荷がかかりにくくなる恐れがあります。
ストレッチと負荷のバランスを両立させるには、体格に応じた適切な角度調整が必要となります。 - 呼吸がしづらい(胸や腹部が圧迫される)
ベンチに胸を密着させた状態で動作を行うため、胸や腹部が圧迫されます。
結果、呼吸が浅くなりやすく、セット中に息苦しさを感じることがあります。
特に高重量や高回数で行う場合は、呼吸が乱れやすく集中力を欠く原因にもなり得ます。 - 体幹の関与が少なくなる
上半身をベンチに預けて姿勢を固定するため、脊柱起立筋や腹筋などの体幹筋群の活動が少なくなります。
結果、全身の連動性やバランスを養うにはやや不向きとなります。
脊柱起立筋を除く背中の筋肉に集中しやすいというメリットもありますが、競技パフォーマンス向上や実用的な動きの強化を目的とするトレーニーにとっては、やや物足りなく感じるかもしれません。
🔴 インクラインダンベルロウの方法(やり方)
準備
- インクラインベンチの角度を30〜45度程度に設定します。

セットアップ
- 両手にダンベルを持ち、ベンチにうつ伏せになります。
- 胸とお腹をベンチにつけ、足は後方の床につけて体を安定させます。
動作の邪魔にならないように足は後方の床にへ伸ばす形で床につけます。 - 腕は自然に下げ、肩をしっかり落として背中をストレッチさせましょう。
このとき、ダンベルが床に当たらないか確認してください。
もし当たる場合は、ベンチの角度を大きく(より立てるように)調整して、安全かつ十分な可動域を確保します。

動作
- 動作の直前に息を吸い、息を止めて腹圧を高めた状態を作ります。
インクラインダンベルロウはベンチで胸腹部が圧迫されるため、呼吸がつらくなります。
動作中に息を止める ”バルサルバ法“ を用いると動作に集中しやすくなります。
※もちろん息を止めずに行っても問題ありません。 - 肘を斜め後方へ引くイメージで、ダンベルを引き上げます。
ダンベルを引き上げる際には、肘は体の近くを通るように引き上げ、広背筋の収縮に意識を集中させます。
また、引き切ったところで肩甲骨を寄せるようにすると、僧帽筋も刺激されます。

- ダンベルをゆっくりと元の位置まで下ろします。
ネガティブ動作も丁寧に行いましょう。
ダンベルを下ろしながら、もしくは下ろし終えるあたりから息を吐くようにしましょう。
呼吸のタイミング
インクラインベンチを使ったダンベルベントオーバーロウでは、胸をベンチに密着させた状態で動作を行います。
そのため、引き上げる際には息を止めておかないと胸部がつぶされる形になり、腹圧も保ちにくくなります。
この動作中に息を止めて腹圧を高め、体幹を安定させ力を発揮する方法のことを、バルサルバ法(バルサルバ・テクニック)といいます。
バルサルバ法を用いる場合は、動作の直前に息を吸い、息を止めた状態で腹圧を高めダンベルを引き上げましょう。
ダンベルを下ろす動作中、または下ろし終えたタイミングで息を吐くと、腹圧を保ちやすく、動作も安定しやすくなります。
ただし、息を長く止めすぎると、血圧が急上昇しやすくなるため注意が必要です。
止めたまま動作を続けるのはやめましょう。
呼吸は動作に合わせてリズムよく行いましょう。
呼吸のタイミング(バルサルバ法)
- 動作前に息を大きく吸い込み、腹圧を高めます。
胸を張り、お腹に力を入れるようにして、体幹をしっかり固めます。 - 息を止めたまま、ダンベルを引き上げます。
このとき腹圧をかけたまま、背中でしっかり引くようにしましょう。 - ダンベルを戻しながら、または戻し終えるあたりからゆっくり息を吐きます。
力を抜きすぎず、次の動作に備えて呼吸を整えましょう。
インクラインダンベルロウのセッティング
インクラインダンベルロウには、可動域が制限されやすい・前傾姿勢にも制限があるというデメリットがあります。これらのデメリットは、セッティングの調整によって回避を図ることができます。
1.基本のセッティング(初心者におすすめ)

座面・腹部・胸部とベンチに接する部分が多いため体が安定しやすく、比較的体圧を分散することができるため呼吸も行いやすいというメリットがあります。
初心者におすすめのセッティングです。

反面、顔まわり・肩回りにベンチがあるため動作が窮屈になりやすいというデメリットもあります。
また、十分な動作スペースを確保しようとすると、ある程度ベンチの角度を立てなければなりません。
ベンチの角度が大きくなると、背中へ負荷がかけにくくなる場合があります。
2.ベンチの端から顔だけ出すパターン

基本のセッティング①から、足の力で座面から体を押し上げて、ベンチの端から顔だけが出る位置まで移動して動作を行うパターンです。
腰が座面から離れるため、両足・腹部・胸部で体を支える形になります。
①に比べて、ベンチとの接触面が少なくなるため、安定性はやや低下し、腹部・胸部への圧迫感もやや強く感じられることがあります。
反面、顔まわりが自由になるため、首を自然な角度にしやすくくなり、動作時の快適さが向上します。

また、ベンチ背面を「登る」ようなポジションになるため、ベンチの角度を①より少し浅く(倒し気味に)設定することも可能です。
背中の筋肉に刺激を入れるためには有利に働きます。
3.肩回りから上をベンチの端から出すパターン

②よりさらに体を押し上げて、肩回りから上をベンチの端から出すようにすると、ベンチが動作に干渉しづらくなるため、可動域がより広く取れるようになります。
特に、ダンベルを下ろした時に、肩まわりがベンチの端から出ているため、背中の筋肉にしっかりストレッチをかけることができるようになります。
ただし、体を支える接点が腹部のみとなるため、腹部への圧迫感が強まり、呼吸が苦しくなりやすいというデメリットもあります。
また、胸から上は自力で支えなければならないため、安定性も低下します。

反面、②よりさらにベンチの角度を倒すことができ、体幹が床とより平行に近づくセッティングが可能です。
正しいフォームで行えば、しっかりと背中に効かせることができます。
結局どのセッティングがいいのか?
前述の通り、それぞれのセッティングにはメリット・デメリットがあり、目的に応じて使い分けるのが理想的です。
ただし、初心者の方にはまず ① 基本のセッティング から始めることをおすすめします。
動作の安定性が高く、フォームの習得もしやすいためです。
①→②→③と段階的に挑戦していくのもいいでしょう。
各セッティングの特徴
目的・状況 | ① 基本のセッティング(初心者向け) | ② 顔だけ出すパターン | ③ 肩から上を出すパターン |
---|---|---|---|
フォームの安定性 | ◎ 最も安定 | ○ やや安定 | △ 体幹の力も必要 |
前傾角度の調整しやすさ | △ 限定的 | ○ 調整しやすい | ◎ 最も倒しやすい |
背中への効かせやすさ | △ 弱め | ○ 標準的 | ◎ 強く効かせやすい |
可動域の広さ | △ やや狭い | ○ 標準 | ◎ 最大限に活用可能 |
反動の排除(フォームコントロール) | ◎ 抑えやすい | ◎ 抑えやすい | ○ 多少出ることも |
呼吸のしやすさ(圧迫感の少なさ) | ○ 比較的楽 | △ やや苦しい | ✕ 圧迫感が強く呼吸がしづらい |
まとめ
インクラインダンベルロウは、フォームの安定性が高く、反動を使いにくいため、広背筋や僧帽筋など背中の筋肉に集中して刺激を与えやすい優れた種目です。
特に初心者にとっては、ベントオーバーロウの正しいフォームを習得するためのステップとしても有効で、「効かせる感覚」を養うのにも最適な種目です。
一方で、可動域や前傾姿勢に制限がある、体幹の関与が少ないといったデメリットもあります。
目的や体格、筋力に応じてセッティングを工夫しながら取り入れていきましょう。
また、腰への負担を減らすという観点では、ワンハンドロウなど他にも優秀な種目があります。
いずれも、背中の筋肥大を目指すうえで非常に有効なトレーニングなので、正しいフォームで丁寧に取り組み、背中のトレーニングにさらなる深みを加えていきましょう!
コメント